交響詩・遥かなる流れの郷
「胆沢」


 初夏の胆沢を歩く、光と水を感じた。その輝きは、まぶしくはない。
 「日本一の田舎」を目指す胆沢の風景を見ていたとき、ふと、ここは日本ではないのではないか、という感覚におそわれた。突然空間を飛び越え、ヨーロッパの田舎に来たような。なぜかは解らないが、フランスの田舎にいるような。

 この風景に導かれて、作曲の筆は思ったよりずっと軽く進んだ。第一楽章、ここに是非、モーリス・ラヴェルの光の音楽を引用してみたくなった。胆沢の風景にごく自然に溶け込む。考えてみれば地球というごく小さな星の、更に小さな人間の営みに、そう大きな差があろうはずもないのだ。
 この美しい町の水は、世界へとつながっている。水だけではない、空も空気も、そして音楽も。この町からこの曲を発信できることを、心から嬉しく思う。そしてそれが、大きく翔いてくれることを、願っている。



初演:1997年6月3日 胆沢町文化創造センター
指揮:菅野由弘
演奏:新星日本交響楽団